2024.1.17
コラム
シリーズ連載「知る・わかる・ラクになる ドクターに訊く 私たちの困ったカラダのつき合い方」はあなたの心と体に寄り添って、より自分らしく快適に生きるためのコツを専門の医師からアドバイスしていただくシリーズ。伊勢丹新宿店地下2階にある美と健康のショップ「ビューティアポセカリー」でお悩みの多いカテゴリーをピックアップし、 自分をもっと好きになるために、今できるケアの情報をお伝えしていきます。
第2回目は、生理痛とPMSがテーマ。生理痛やPMSがつらいのに我慢している女性たちがたくさんいます。生理周期にまつわるお悩みの声をもとに、産婦人科医の中込彰子先生に、生理痛やPMSの症状を上手に乗り越えて、快適に過ごすための正しい知識と、取り入れやすいお悩みの解決法をアドバイスいただきました。
取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
「つらい生理痛があったら、ぜひ婦人科に相談して欲しいです」と話す産婦人科医の中込彰子先生。
仕事や生活に支障があるような生理痛に悩んでいる人は少なくありません。とは言え、これまで婦人科のクリニックに行ったことがないと、「ひょっとしたら病気?」「受診したほうが良いの?」と思っても、「生理痛がつらい」というだけでは、なかなか受診しにくい、という人もいます。
「そんなときは、このチェックリストを使ってみてください。これらの中でチェックがつく項目があれば、婦人科で相談ください。婦人科に行くときにはチェックがついた項目をメモしておいて医師に伝えると、診察にも役立ちます。婦人科に来ていただき、効果的な治療法を一緒に検討しましょう」(中込先生)
参考資料/子宮内膜症情報ステーション「子宮内膜症セルフチェック」を参考として中込彰子先生の取材をもとに追記改変。
生理痛に悩む人が増えているのは、現代女性が一生のうちに経験する生理の回数が、昔に比べてかなり増えている背景があるためと言われています。理由としては、生理が来る年齢が早まっていることや、出産数が減って月経の止まる期間が非常に少ないことなどが挙げられます。現代女性が閉経までに経験する生理の回数は、およそ450回。それに対し、昔の女性の生理の回数はおよそ50回。およそ9倍に生理回数が増えているのです。
「生理痛の程度や痛む場所などは一人ひとり、そして同じ方でも体調や年齢などで変化します。悩んでいる人が多い生理痛ですが、いつまで様子を見てて良いのかの判断は難しいですよね。生理のたびにつらい思いをされているなら、“痛いのは、あたりまえ”“いつもの自然なこと”と思って我慢をしないで。本来、生理痛はあっても軽いもの。ひどい時でも2、3日目だけ痛み止めを1日1−2錠飲めば普通に生活できるはずなんです。」(中込先生)
ある研究によると、「生理痛がない」と答えた女性は約2割。残りの約8割が生理痛を経験していて、生理痛を経験している人の中で約3割の人が、治療が必要な状態でした*。
*:リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)から見た子宮内膜症等の予防、診断、治療に関する研究(総括研究報告書)2000年度
「生理痛がひどいとき、背後に痛みの原因になる病気が隠れている場合(器質性月経困難症)もあれば、病気が隠れていない場合(機能性月経困難症)もあります。病気かどうかわからないのになかなか病院には行けない、という人も多いですが、病気があるかどうかを確認するために、ぜひ婦人科を受診してほしいと思います。背後に隠れた病気があっても、なくても、婦人科では、つらい症状を緩和する方法があります。大切な毎日を快適に過ごすために、健康管理のために、婦人科医をぜひ頼ってください」
特に今までより生理痛がひどくなったと感じたら、そのときが受診のチャンス。仕事や日常生活での大変さにプラスして、生理のつらさを抱えているのは、体にとっても心にとっても大変な負担です。せめて、生理には振り回されないようにしたいですね。
「鎮痛剤はクセになる」「飲み続けていると効かなくなる」「ほかの薬との飲み合わせが怖くて飲めない」と、鎮痛剤を怖がっている人の声もあります。生理痛で鎮痛剤を飲んでも問題ないのでしょうか?
「痛みは、鎮痛剤を飲んで早めに抑えることが大切です。痛みを我慢していると、痛みを感じる脳の回路ができて、それほど痛くなくても痛いと感じるようになってしまいます。
痛みは、軽いうちに飲んだほうが、鎮痛剤も少しの量で効きます。毎月生理痛が起こることがわかっている人は、生理が来る少し前や来てすぐから鎮痛剤を飲んでいただけたらと思います。
また、生理痛がある2~3日だけ頓服的に飲む分には、まったく問題ありません。市販のアセトアミノフェン、ロキソニンなどの鎮痛剤は、その程度の量でクセになる、効かなくなるということもありません。もしも、鎮痛剤の量が増えてきた、効かなくなってきたとしたら、そのときこそ、婦人科を受診するタイミングです。痛みの原因が本当に生理痛だけなのか、一緒に考えましょう」と中込先生。
婦人科での診察は、内診台が受診のハードルになっている方もいると思います。実際のところ、内診台は必須ではありませんが、超音波(エコー)検査をする意味は重要です。子宮や卵巣などに病気があるかどうかをチェックし、適切な治療法を選択することができます。
「お腹の上からの超音波検査(経腹エコー)は、痩せている方や排尿前であれば有効ですが、詳細な子宮や卵巣の情報を得るのは難しいことがあります。その場合は、ご本人と相談の上、腟からの超音波検査(経腟エコー)を行なったり、性交渉の経験がない方や、腟からプローブを入れての診察に抵抗がある方には、お尻からの超音波検査(経直腸エコー)を行います。プローブの太さは、バナナ様のうんちより細いくらいなので、きちんと説明してご理解いただければ、中学生の方でも問題なく診察させていただけています。」(中込先生)
婦人科で重い生理痛の治療法のファーストチョイスとなるのは、ホルモン治療です。一般的に、生理の出血量が多く生理痛もつらい場合に選択するのが低用量ピルで、ほとんどの生理痛や生理の出血量を軽減でき、生理の時期を大事な仕事やプライベートの行事からずらすことも可能です。生理不順の心配からも解放され、使うナプキンの枚数も減ります。ただし、低用量ピルには、まれではありますが血栓症のリスクがあり、使用ができない方もいらっしゃいます。あるいは生理痛がメインで生理の出血量は多くない方もいます。そのような場合には、女性ホルモンのうち血栓リスクとならない黄体ホルモンのみの製剤である、ジエノゲスト®︎という薬で治療を行います。
「生理をコントロールでき、生理痛に振り回されずに済むのは、メリットが大きいのではないでしょうか。低用量ピルは排卵を抑制する避妊薬でもあるので、予期せぬ妊娠から自分を守ることもできます。
また、低用量ピルもジエノゲスト®︎も、20−30代女性の10人に1人が罹患しているという子宮内膜症の治療薬です。子宮内膜症は、月経困難症だけでなく不妊症の原因にもなるため、その予防としても有効です。女性が妊娠したいときに妊娠できるように生理を調整できるということは、人生設計の中で子どもを作るタイミングを自分で決められるという、大きなメリットだと思います」(中込先生)
痛み止め一つをとっても、婦人科で処方する鎮痛剤は、ドラッグストアなどの市販のものとは違います。一人ひとりの痛みに合った薬と、効果的な使い方もアドバイスしてもらえます。
また、漢方薬もよく使われます。「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」は、生理痛で起こる子宮の筋肉の収縮をやわらげる作用があり、肩こりや筋肉の緊張で起こるタイプの頭痛などにも即効性がありよく効く漢方薬です。味がちょっと…という方は、蜂蜜を入れて飲んでも大丈夫です。
PMSがつらい人と生理痛がつらい人とは、重なることが多いと言われていて、PMS症状が強く出る傾向の人のうち約8割は、生理痛がひどいという報告もあります。女性ホルモンの変動の振幅が大きい人は、PMSにも生理痛も起こりやすいのかもしれません。
PMSは、生理前3日~10日の期間に起こる精神的、身体的症状で、生理が始まるとともに、軽快したり消失したりするものです。原因は、まだはっきりわかっていないことが多いですが、2つの女性ホルモン、エストロゲンとプロゲステロンの急激な変動が関係していると考えられています。
排卵がある女性は、排卵から生理までの期間に、エストロゲンとプロゲステロンが多く分泌されますが、生理前になるとこの2つのホルモンは急に変動します。それによって脳内の神経伝達物質が低下しPMSが起こると考えられています。けれども、脳内の神経伝達物質はストレスの影響も受けるため、PMSは女性ホルモンの変動だけではなく、さまざまな要因が関係して起こるといえます。
繊細で、細かいことを気にする、ストレスを溜めやすい人は、PMSが悪化しやすいと言われています。また、PMSの症状が強い人は、更年期障害にもなりやすいので、症状をケアしておくことは更年期障害の予防としても大切です。
「PMSには、100~200種類とも言われるほど、多種多様な症状がありますが、多いのは、イライラ、怒りっぽくなる、気分の浮き沈み、胸(乳房)が張るなどです。食欲が増す、眠い、むくむなどもあり多彩です。PMSの主な症状をまとめましたので、参考にしてみてください」(中込先生)
生理の3日~10日前になると現れて、生理が始まると、なくなる、あるいは軽くなる症状をチェックしてみてください。
上記の症状に、ひとつでも当てはまっていたら、PMSの可能性があります。
参考資料/『産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2020』日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会: 174-176, を参考として中込彰子先生の取材をもとに追記、改変。
「ここに挙げたような、PMSなどの生理周期による不調やトラブルは、生理と関連していることに気付けるかが診断の鍵です。生理は開始日と終わった日を記録する習慣をつけましょう。また、毎月不調を繰り返している気がしたら、その症状と日付を記録してみましょう。関連に気づくだけで、改善の方向性が見えてきます。
また、PMSも生理痛と同様に、低用量ピルを服用することで効果があることも少なくありません。低用量ピルにもいろいろ種類があるので、婦人科医と相談してもらえれば、あなたにピッタリのものをアドバイスできると思います。
また、イライラや気持ちの浮き沈みが強い人には、漢方薬の「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」もよく処方します。
さらに、PMSだと思っていたら、甲状腺の病気や膠原病などが隠れている場合もあります。日常生活に支障があるような場合は、一度、婦人科を受診してみてください」(中込先生)
生理痛やPMSなどの生理周期にまつわる不調は、セルフケアすることで軽減できる場合もあります。運動やストレッチで血行をよくして体を温めることや、体に優しい食事も大切です。生活習慣の中に上手に取り入れてみてください。
「生理中の腰やお腹の痛みは、ストレッチを行うことで和らげられる可能性があります。血液の循環が改善して筋肉がゆるむことで、体全体がリラックスすることにもつながります。簡単で手軽にできるストレッチ法を少し紹介します」(中込先生)
ステップ①壁やテーブルにつかまり、50センチくらい離れて立ち、手と足は腰幅に開きます。ひざを伸ばしたまま、腰を前に押し出します。ゆっくり呼吸をしながら4回繰り返します。
ステップ②次に、上体を前に、腰を後ろに引きながら、両ひざを曲げて、おヘソを見ます。ゆっくり呼吸をしながら、背中や腰をリラックスして伸ばします。これを4回ほど繰り返します。
ステップ①四つ這いになって、背中を丸くして、頭を中に入れます。息をゆっくり吐きながら、おなかをしめて、腰を伸ばします。
ステップ②静かに息を吐きながら、背中をゆるめ、腰を反らせながら顔を上げます。ひじは曲げないように注意します。①と②を交互に4回ほど繰り返します。
参考文献/社団法人日本家族計画協会「マンスリービクス」
「PMSや生理の時期は、甘いものや刺激の強い食べ物をストレスで過剰に摂取しがちになることがあります。でも、それらの食べ過ぎで症状が悪化することがわかっていますので、注意してください。西洋医学的には、PMSの原因となっているのは黄体ホルモン(プロゲステロン)ですが、東洋医学的には、体を構成する成分とされる気血水のいずれかの不足や滞り、バランスの崩れが原因とされています。生理痛は、血の滞りや血の不足、冷えなどが原因なので、それを解消する食材と料理の一例をお示しします。生理前や生理中は特に、心と体の不調に寄り添う食材を摂取して、調子を整えるようにしましょう。」(中込先生)
おすすめの食材:ピーマン、卵、ほうれん草など
おすすめ料理(薬膳):とろとろ卵の回鍋肉、ほうれん草と卵のオイスター炒めなど
おすすめの食材:牛肉、黒砂糖、カツオなど
おすすめの料理(薬膳):牛肉とニラの醤油炒め、カツオの漬け丼など
「生理痛やPMSなどの生理に関連した不調を上手にケアしていくためには、我慢しないことが一番大事です。生理や生理痛はコントロールできます!
職場で生理に関係する不調を相談できない、休んで婦人科を受診することができにくい場合は、上司や同僚に “頑張りたいのに、パフォーマンスが落ちて頭が回らず、仕事がうまくいかない。生理痛を改善するとパフォーマンスがあがると言われているので、職場に貢献するためにも病院に行って改善法を教えてもらいたい”と相談してみてはどうでしょうか? または、“医師から受診するように言われた”と医師のせいにしても良いと思います。社会的にも、女性は生理痛の治療のために休む権利があるのですから。
何より、まずは自分がつらいと思っている事実を受け止めましょう。生理にまつわる症状がつらいことは全く悪いことではありません。でも、つらさはストレスになり、良いことを生みません。ですから、つらいことを改善するその一歩は踏み出してほしいと思います。
そして、婦人科医をぜひとも頼ってください。女性のつらい不調をケアする方法を知っているプロであり、あなたに合った対処法を提案してくれるはずです。時には時間がかかってしまうこともあるかもしれませんが、ぜひ、ご自分に合った信頼できるかかりつけ医を見つけていただきたいと思います」(中込先生)
イラスト/佐藤 尚美
Instagram:@naomisatoh_design
お話を伺ったのは…中込彰子先生 山梨大学医学部 産婦人科医
なかごみあきこ●愛媛生まれ、広島育ち。日本産科婦人科学会専門医、漢方家庭医 、薬膳調整師 、NPO法人女性医療ネットワーク理事、食育インストラクター。
2児の母。山梨大学医学専攻の院生でもある。
2010年琉球大学医学部卒業後、「地域に根ざした女性総合診療医」を目指し総合診療医として市立大村市民病院(長崎)で勤務の後、 Oregon Health & Science University短期留学。産婦人科へ転科し、2014年より7年間東京で様々な産婦人科診療に従事した後、現在は山梨大学病院を中心に勤務。山梨県の女性たちのために自身に何ができるかを模索しながら、日々研鑽を積んでいる。『内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント』『Rp.+(レシピプラス)ホルモンとくすり』共同執筆。
取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
当事者視点に立った女性のヘルスケアや医療情報について執筆、講演を行う。数多くの雑誌、WEBマガジンで連載。乳がんサバイバーでもあり、がんやがん検診の啓発活動を行う。
著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。
詳細は増田美加オフィシャルサイト参照。
カフェやスパ、医療機関の揃う伊勢丹新宿店本館地下2階にショップを構えるビューティ&ヘルスケアのトータルショップ。
“今”も“これからも”美しく健康でありたいと願うお客さまのかかりつけショップでありたい。その想いから、お客さまそれぞれの「ありたい自分」を叶えるアイテムを、コスメ、フレグランス、フード、インナーサポートなど幅広く取りそろえてご紹介しています。
ポイント
エムアイポイントのプレゼントキャンペーンを随時開催
ギフトラッピング無料
お届け先を指定する際にギフトラッピングを承っております。
送料無料 /最短当日発送
1会計税込2,750円以上のご購入で送料無料。午前10時59分までのご注文で最短当日発送。