2024.6.14
コラム
シリーズ連載「知る・わかる・ラクになる ドクターに訊く 私たちの困ったカラダのつき合い方」はあなたの心と体に寄り添って、より自分らしく快適に生きるためのコツを専門の医師からアドバイスしていただくシリーズ。伊勢丹新宿店地下2階にある美と健康のショップ「ビューティアポセカリー」でお悩みの多いカテゴリーをピックアップし、自分をもっと好きになるために、今できるケアの情報をお伝えしていきます。
6回目のテーマは、尿もれ・頻尿。今、若い世代の尿もれ、頻尿が増えていると言われています。その対策を女性泌尿器科医師の関口由紀先生に教えていただきます。改善効果があるとされている簡単な骨盤底筋トレーニングの方法についても伺いました。
取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
【目次】
◆20代、30代でもモレていた! 頻尿・尿もれの原因は?
◆骨盤底ってどこにあるの?4万人の日本女性を対象とした尿もれ大規模実態調査*1で、20代~60代の女性の2人に1人以上が尿もれを経験していることがわかりました。実に多くの女性が頻尿・尿もれに困っている実情が見えてきたのです。
これらの頻尿・尿もれを経験している人のうち、約6割は出産経験がない人でした。20代、30代でも、約6割もの女性が頻尿・尿もれを経験しているとの結果も出ています*1。尿もれは、更年期以降の女性や産後の女性の悩みと思っていましたが、実は年代にかかわらず、誰にでも起こりうることだったのです。
「尿もれの原因は、年齢を重ねることだけでなく、ほかにもいろいろあります。遺伝的に骨盤底筋や骨盤底のじん帯が弱い人もいますが、座りっぱなしや運動不足などの生活習慣、肥満、やせすぎ、過度なスポーツの経験(運動のやり過ぎ)なども原因になります。
昔は、産後や肥満による尿もれが中心でしたが、今は、お産の経験の有無にかかわらず、若い世代は、やせすぎで運動習慣がない人、また逆に激しい運動をする人にも頻尿・尿もれが増えています。
昔の女性たちは、畳の生活で立ち坐りの回数が多く、雑巾がけや和式トイレでも骨盤底筋が鍛えられていました。しかし、現代は、椅子に座る生活が中心になり、昔に比べて予想以上に骨盤底の筋力が低下しているのです」と関口由紀先生。
*1 日本女性20代から60代4万人に聞く尿もれ実態大規模調査(P&Gジャパン)2019年より
女性の骨盤底は、骨盤底の筋肉の集合体(骨盤底筋群)と、じん帯、筋膜、皮下組織などで構成されるプレートです。尿道、腟、肛門の周辺にあって、恥骨から尾骨までハンモック状に広がっています。骨盤底には、2つの機能があって、①骨盤内の臓器を支える機能と、②排泄の機能(尿や便だけでなく、赤ちゃんが出てくる道でもある)があります。
腟と尿道、肛門は自分で意識して締められる機能があります。骨盤底筋が正常な場合は、肛門と腟はグッと締めて、内側にしっかり引き上げられます。これができないと、骨盤底筋がかなり弱っています。遺伝的要因の人もいますが、妊娠・出産で骨盤底の機能障害が生じる人、更年期以降、骨盤底機能が弱くなり、尿もれを起こす人もいます。
女性の尿トラブルでいちばん多いのは、「腹圧性尿失禁」という咳やクシャミをしたときにもれるタイプ。
次に多いのは、「切迫性尿失禁」で、突然トイレに行きたくなり我慢できず、もれてしまうものです。切迫性尿失禁の急な尿意は、自分の意思に反した膀胱の強い収縮によって起こるもので、「過活動膀胱(かかつどうぼうこう)」という状態が背景にあると言われています。
「腹圧性尿失禁は、妊娠・出産経験がある人に圧倒的に多く、ほかに肥満、便秘なども原因になります。
切迫性尿失禁の原因は、過活動膀胱ですが、過活動膀胱の原因は明確にはわかっていません。過活動膀胱は、40歳以上の男女のうち約1千万人以上がかかっていて、その半数に切迫性尿失禁があるといわれています。また、閉経後にフェムゾーンに乾燥、かゆみ、尿もれ、頻尿、痛みなどがあるGSM(閉経関連尿路性器症候群)という病気とも複雑に関連しています。
また、「細菌性膀胱炎」は、20代~40代女性に多いです。痛くて出血もあるので、クリニックを受診する人が多いです。女性は男性に比べて尿道が短いため、尿路感染が起きやすいのです。お風呂での洗い過ぎも原因になりますので、注意してください」(関口先生)
重い荷物を持ち上げる、咳やくしゃみ、排便時のいきみなど、お腹に力が入ると、漏れます。骨盤底の筋肉やじん帯が緩むために起こります。妊娠や分娩経験、肥満、便秘、過度のスポーツなどで腹圧をかけることが原因になっています。
多くの場合、特に原因がないのに膀胱が勝手に収縮し、頻尿になり、急に尿がしたくなって我慢できなくなり(尿意切迫感)、間に合わずにもれてしまいます(切迫性尿失禁)。頻尿(昼間8回以上が目安)や夜間頻尿(就寝中2回以上トイレに起きる)があります。加齢、ホルモンの低下、血管や神経の障害、ストレスでも起こりますが、女性の場合は、腹圧性尿失禁と同様の骨盤底の脆弱化が原因の場合が多いです。
「腹圧性尿失禁」と「過活動膀胱」の混合タイプの人が約25%います。
閉経後、女性ホルモンの低下による尿路や性器の萎縮によって、尿もれ、頻尿、性交痛、かゆみ、痛み、再発性膀胱炎といった症状が表れます。GSMは慢性的にどんどん進行し、閉経後の半数以上の女性が悩んでいるといわれています。
20代~40代の、どの年齢にも多い症状です。頻尿、残尿感、膀胱の痛み、出血などが起こります。女性は尿道が短く、尿道と肛門が近いため、雑菌が尿道から入りやすく、男性よりも膀胱炎になりやすい体の構造をしています。フェムゾーンの洗い過ぎも原因になります。
「骨盤の底にあるハンモック状に広がる筋肉の集まりが骨盤底筋群です。骨盤底筋のトレーニングは、尿もれ・頻尿の改善と予防に有効です。毎日いつでもどこでもできて、予防としても、治療としても効果が高いので、おすすめです。生理が始まったら、10代の女性でも行う意味があります。もちろん症状を感じてからでも遅くはありません。骨盤底筋を鍛える基本のやり方をご紹介します」(関口先生)
まずは、腟と肛門周りの骨盤底筋に意識を集中させます。脚や腹筋など、余分なところに力を入れないようにします。
①骨盤を立てて座り、腟をキュッと締める
最初は3秒間キープ。腟を引き上げるイメージで締めたまま、10秒間、維持することができるかを試してみます。
↓
②慣れてきたら、ゆっくりと締めたり、緩めたりをくり返す
10回〜20回を1セット。1日3セットを目安に行います。座っている姿勢だけでなく、立っている姿勢、寝ている姿勢でも行なってみてください。毎日続けることがおすすめです。
「うまくできない人は、骨盤底筋の筋力が落ちて、弱くなっているのかもしれません。お風呂でリラックスしたときに、腟に指を入れて、指を締めることができるかをチェックしてみてください。1日1回、フェムゾーンに関心をもつ機会になります。
まず、腟口と尿道口の周りにある腟前庭部の筋肉は触れますので触ってみましょう。次に、腟の中に、人差し指の第2関節くらいまでを入れて、その指を締めてグッと持ち上げます。そのとき使う筋肉が骨盤底筋群の筋肉です。
体調の良いときは、締められるけれど、体調が悪いときは締められないときもあるなど、健康のバロメータにもなります。体調が悪いときは、肛門の周りや尾骨、恥骨周りがシコって痛い人もいます。
腟に指を入れて締められない人は、骨盤底筋の筋力が落ちている可能性が高いです。女性泌尿器科や婦人科を受診して相談してください。骨盤底筋を鍛える治療法やセルフケアの方法をアドバイスできます」(関口先生)
尿もれや頻尿があると、将来、GSM(閉経関連尿路性器症候群)や骨盤臓器脱になる可能性があると言われています。
GSMとは、閉経後に腟の乾燥、痛み、頻尿、尿もれ、繰り返す膀胱炎、性交痛、性交出血、性欲の低下などを起こす病気です。
骨盤臓器脱は、腟から子宮や膀胱、直腸などの臓器が出てきてしまったり、腟が裏返って出てきてしまう病気です。70代から起こってきます。
「GSMや骨盤臓器脱を防ぐためにも、早いうちに骨盤底を意識して、骨盤底筋トレーニングなどのケアをしたほうがいいです。
尿もれ、頻尿によってQOL(生活の質)が下がって、外出を控えるようになったり、運動をやめてしまったり、人と会うのが億劫になってしまう人もいます。その結果、気分が落ち込み、うつっぽくなることも。
今、症状がある人はもちろん、ない人も今日から始めましょう」(関口先生)
お風呂は、フェムゾーンケアの時間として最適です。フェムゾーンの洗浄料はどんなものを使ったらよいのか、保湿はどのようにしたほうがいいのでしょうか?
「フェムゾーンを洗うのは、弱酸性の洗浄料でやさしく洗います。pH(ペーハー)値がフェムゾーンと同じ弱酸性のものを選びます。
洗浄料で洗う場所は、外側の大陰唇(皮膚)。小陰唇や尿道や腟の周りは、粘膜なので、ぬるま湯でやさしく洗えば十分です。洗い過ぎはNG。若い人でも大事な常在菌を取り除いてしまいます。特に更年期以降、女性ホルモンのエストロゲンが低下すると粘膜が弱くなり、乾燥がすすむため、常在菌がいなくなって、バリア機能がなくなり、ますます感染が起きやすくなってしまいます。ビデも使い過ぎないようにしましょう」(関口先生)。
お風呂から出たら、体にボディクリームを塗るのと同じように、フェムゾーンも保湿する習慣をつけましょう。保湿する場所は、大陰唇などの皮膚部分です。
ひどいアトピー性皮膚炎やGSMの症状がある人以外は、普通のボディ用の保湿クリームや保湿ジェルで構いません。GSMなどの症状がある人は、フェムゾーン専用のものを使います。
「腟内に使う保湿オイルなどが売られていますが、若くて症状のない人は、十分うるおっていますから、腟内を保湿する必要はありません。乾燥が気になりだしたら、トライしましょう。
GSMの人や閉経後で乾燥症状のある人は、人差し指の第2関節まで腟内の保湿オイルやジェル(会陰切開後に使う保湿オイルでも可)をつけて、腟内に指を入れて、指をグルっとひと回しして保湿オイルをつけます。腟内のケア商品として乳酸菌製剤などが発売されています。ほかにもありますが、玉石混合なので、自分で試して、自分にあった製品を選びましょう。」(関口先生)
尿もれ、頻尿の対策のために生理用ナプキンを使うのではなく、使う場合は、尿もれ用のシートを使いましょう。尿のニオイ対策やかぶれにくい素材など、尿もれ対策に工夫されたものが出ています。
「尿もれシートを使う場合は、つけっぱなしにしておくのはダメです。皮膚のためによくないので、外す時間をつくることが大切。外出時に勝負下着をつけるけど、家ではコットンの下着にするように、使い分けます。尿もれシートを使うのは、外出時だけにするとか、運動をするときだけにするとか、使うシーンを限定しましょう」(関口先生)
イラスト/佐藤 尚美
Instagram:@naomisatoh_design
お話を伺ったのは…
関口由紀(せきぐちゆき) 先生
女性医療クリニックLUNAグループ理事長
(株)フェムゾーンラボ社長 一般社団法人日本フェムテック協会代表理事。横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学終了。医学博士。現在、横浜市立大学医学部泌尿器科客員教授として女性泌尿器外来を担当。日本泌尿器科学会専門医・指導医。著書に『性ホルモンで乗り越える男と女の更年期』(産業編集センター)ほか多数。
取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
当事者視点に立った女性のヘルスケアや医療情報について執筆、講演を行う。数多くの雑誌、WEBマガジンで連載。乳がんサバイバーでもあり、がんやがん検診の啓発活動を行う。
著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。
詳細は増田美加オフィシャルサイト参照。
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