2025.3.28
コラム
シリーズ連載「知る・わかる・ラクになる ドクターに訊く 私たちの困ったカラダのつき合い方」はあなたの心と体に寄り添って、より自分らしく快適に生きるためのコツを専門の医師からアドバイスしていただくシリーズ。伊勢丹新宿店地下2階にある美と健康のショップ「イセタン ビューティーアポセカリー」でお悩みの多いカテゴリーをピックアップし、自分をもっと好きになるために、今できるケアの情報をお伝えしていきます。
スマートフォンやパソコン生活の時間が増え、目の悩みが深刻になっています。多くの人が悩んでいるのが、目の疲れ=眼精疲労。ドライアイは20代~30代でも多い悩みです。更年期以降になると眼精疲労の背後には、病気が隠れている可能性も考えられます。ストレスとも関係すると言われている眼精疲労とドライアイ。眼科専門医にその原因と対策方法を伺いました。
お話を伺ったのは
堀 裕一(ほりゆういち)先生
東邦大学医療センター大森病院 副院長・眼科教授
1995年大阪大学医学部卒業、大阪大学医学部眼科学教室入局。米国ハーバード大スケペンス眼研究所研究員。大阪大学医学部眼科助手(助教)、東邦大学医療センター佐倉病院眼科准教授を経て現職。角結膜疾患やドライアイ、コンタクトレンズが専門。日本眼科学会常務理事。日本コンタクトレンズ学会理事長。
取材・執筆/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
当事者視点に立った女性のヘルスケアや医療情報について執筆、講演を行う。数多くの雑誌、WEBマガジンで連載。乳がんサバイバーでもあり、がんやがん検診の啓発活動を行う。
著書に『医者に手抜きされて死なないための患者力』(講談社)、『女性ホルモンパワー』(だいわ文庫)ほか多数。
詳細は増田美加オフィシャルサイト参照。
現代人の目が疲れる理由は、なんでしょうか?
「近視、乱視、老眼による屈折異常があるのに、適切な眼鏡やコンタクトレンズを使っていないと、目を必要以上に使って物を見ようとします。そのことで、水晶体や毛様体がより一層、調節力を使うので目が疲れる(疲れ目)という現象がよくあります。
更年期以降の方は、老眼を放置していたり、若い方でもかけている眼鏡やコンタクトレンズの度が合わなくなっているなども原因として多いですね。近視の方でも定期的に視力を測って、自分の目に合ったレンズに変えていくことも大切です」と堀裕一先生。
単なる目の疲れと眼精疲労とは、違うのでしょうか?
「休息をとっても回復しない、朝起きたときから症状を感じるなどは、ただの目の疲れではなく、眼精疲労の可能性があります。見えにくい、かすむ、まぶしいなどの目の症状だけでなく、肩や首のコリ、頭痛や吐き気など、全身症状が生じている場合も要注意です」(堀先生)
また更年期では、卵巣の機能が低下して、女性ホルモンのエストロゲンも減少します。エストロゲンが減ると、涙の分泌量も減るため、目が乾き、ゴロゴロ、しょぼしょぼ、痛い、だるいなどのドライアイ症状も出てきます。
「眼精疲労の原因はいくつもありますが、ドライアイは大きな原因のひとつです。ドライアイは、世界の疫学を見ても、女性に多い病気です。女性ホルモンの変動によって自律神経の交感神経優位になると、目が乾きやすい傾向にあります。女性ホルモンのエストロゲンが低下するPMSの時期や更年期になると、ドライアイになりやすいのは、そのためです。
特に、更年期になると、眼球を支える筋肉が衰え、若いころと比べて目の機能をカバーすることができなくなります。
水晶体に含まれるコラーゲンも老化によって減り、弾力がなくなり、調節機能が落ちて小さい文字が見えなくなってきます。その結果、ちょっと物を見ただけでも目が疲れやすく、疲労が蓄積して眼精疲労になるのです」(堀先生)
私たちの目はカメラレンズのような働きをして、「水晶体」の厚さを調節してピントを合わせています。この調節にかかわるのが「毛様体筋」。水晶体を引っ張ったり緩めたりしている筋肉です。遠くを見るときは、毛様体筋が緩まり、水晶体を薄くしてピントを合わせます。一方、近くを見るときは、毛様体筋が収縮(緊張)して水晶体を膨らませてピントを合わせています。
更年期以降の眼精疲労の原因は、ドライアイ以外にもありますか?
「注意したいのは、初期の緑内障、白内障、眼瞼下垂などの目の病気です。目の病気には、眼精疲労とよく似た目の疲れやかすみ目などの症状を起こすものも少なくありません。「疲れ目くらいで…」と軽視しないことが大切です。これらの病気も原因になりますから、眼精疲労を放っておかず、眼科を受診して原因を見極めることが大切です」と堀先生。
特に更年期以降の女性が忘れてはならないのが、眼精疲労の背後に隠れた目の病気。加齢にともなって眼精疲労を起こしやすい代表的な目の病気には、ドライアイ、白内障、緑内障、眼瞼下垂、加齢黄斑変性、網膜剥離、糖尿病網膜症(糖尿病の合併症で目の毛細血管が障害されて起こる病気)などがあります。
特に、緑内障、網膜剥離、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症は、失明に繋がる怖い病気でもあるので、注意が必要です。
また、眼瞼下垂は、まぶたの筋肉や皮膚がたるむことで起こりますが、眼瞼下垂が眼精疲労の原因になっていることもよくあります。
「気になる症状があるのに、何もケアしないで放っておくと、病気の発見が遅れ、気づいたときにはかなり悪化していた、というケースも少なくありません。これらの病気の早期発見のためにも、眼精疲労で眼科を受診することは重要なことなのです」(堀先生)
また緑内障は、早期には自覚症状がないことが特徴。40歳を過ぎたら眼科検診に行って、眼底検査をすることが大切です。
たかが疲れ目と甘く見るのは禁物。眼精疲労には必ず原因があります。原因別に適切な対処法を行なうことが大切です。
「残念ながら、眼精疲労そのものを治す特効薬はありません。重要なのは、眼精疲労が起こる原因を探して、適切に対処することです」(堀先生)
原因としてもっとも多いのは、長時間パソコン作業や手先の細かな作業をすること、眼鏡やコンタクトレンズの度が合っていないこと。眼科で検眼して適切なレンズを使いましょう。
現代社会で問題になっているのは、VDT(Visual Display Terminal)ストレス。スマートフォンやパソコンなどを長時間、見続けることで目を酷使。画面を凝視するため、まばたきの回数が減り、目が乾いた状態になり、目が疲れやすくなります。肩こり、首こりや頭痛などを伴うこともよくあります。
「目の周囲や頭部の局所的な血液循環の低下によって、起こっていることが考えられます。特に長時間のVDT作業で起こりがちですが、頭部の血流が低下して、冷えたりむくんだりすることで、さまざまな不快症状が起こります。
長時間の作業をする場合は、1時間おきに10分程度は休憩をとり、目を休めるようにしましょう。目のストレッチや目薬を使用したり、疲れがたまったときは、蒸しタオルなどで目を温めることもいいと思います」(堀先生)
加湿器を使って部屋全体の湿度を上げることも大切。お風呂で湯船に温まることも、湯気で目をいたわることに役立ちます。また、薬ではないので効果は限定的ですが、ブルーベリーなどの目のためのサプリメントも疲れ目に試してみてもいいかもしれません。
心の病気、精神的なストレス、過労や睡眠不足が続くことでも、眼精疲労は起こると言われています。
「特にストレスは、眼精疲労の原因であるドライアイを引き起こす要因になります。涙腺を支配しているのは、副交感神経。涙が出るのはリラックスしている副交感神経が優位なときです。
仕事モードに入っていたり、緊張やストレスで交感神経が優位になると、涙の分泌量が減ってドライアイになりやすくなります。
眼精疲労の予防のためには、リラックスする時間を意識してつくることが大切です。泣ける映画を観て涙が出ること(情動の涙)は、副交感神経が優位になってリラックスに繋がります。ほかにも、好きな運動や音楽を聴くなどをして、ストレスをためない生活を心がけましょう」(堀先生)
加齢に伴う眼精疲労の原因として多いのがドライアイと言われています。日本のドライアイの患者数は、1200万人以上とも言われ増加傾向です。
ドライアイは、涙の量が不足したり、涙の成分が変化して目の表面を均一に潤すことができなくなる病気です。ドライアイの原因にはおもに2つあり、①加齢によって涙の量が不足するタイプ、②若い人に多く目の表面の水分を弾いてしまうタイプ。
「目が乾くといった不快症状だけでなく、乾燥によって目の表面を傷つけてしまう場合もあります。
要因はさまざまで、空気の乾燥、パソコンやスマホでの作業、コンタクトレンズの使用、高齢化による涙腺の機能低下、薬剤やほかの病気による影響なども考えられます。
眼精疲労の症状(目が疲れやすい、ゴロゴロする、目やにが出るなど)と、ドライアイの症状は重なります。
ドライアイは進行すると、視力低下や痛み、角膜上皮剥離(角膜が乾燥してはがれる病気)を発症してしまうこともあります。慢性化する前に、早めに眼科を受診することが大切です」(堀先生)
今、眼科でのドライアイの治療にはどのようなものがあるのでしょうか?
「ドライアイの治療は、①外から水分を補う、②体内から涙の成分を出させる、③涙を留めるといった方法があります。
①は点眼薬による治療が主流で、人工涙液やヒアルロン酸製剤など目を潤すタイプの点眼薬と、②はムチンなどの涙の成分を体内から出させる点眼薬です。
③の涙を留める治療法には、涙点プラグといって、涙の排出口を液体コラーゲンやシリコン製のプラグで塞いでしまう方法があります」(堀先生)
「これらのほかに、涙の脂不足が引き起こすタイプのドライアイ「マイボーム腺機能不全(MGD)」という病気に対しては、自由診療になりますが新しいIPL(Intense Pulsed Light)という治療法が出てきました」(堀先生)
MGD =Meibomian Gland Dysfunction
MGDは、さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が大きく低下してしまう病気です。最近の調査では、MGDによるドライアイは、ドライアイ全体の86%以上と言うデータもあります*1。
*1 DEWS II report, Ocular Surface, 2017 Lemp, et al.Cornea. 2012 May;31(5):472-8.
マイボーム腺は、まぶたの中にある脂分を分泌する皮脂腺です。開口部は、上下のまつ毛の生え際よりやや内側にあり、そこから脂が分泌されます。開口部は上まぶたに25~30個、下まぶたに20~25個 あります。マイボーム腺から分泌される脂は、涙の表面を覆うことで涙の蒸発を抑え、涙を安定させる働きがあります。
「MGDという病気は、さまざまな原因で、マイボーム腺の機能が大きく低下して、詰まることによって起こります。 MGDになると、涙の脂が不足して、涙が不安定になりドライアイが発症します。
これまでのドライアイの治療では、改善できないと悩む方が少なくありませんでした。涙の脂不足が引き起こすMGDのドライアイに対しては、マイボーム腺の状態を調べ、まぶたに強い光を当てるIPLという治療方法が可能になりました。 IPL治療は、まぶたに強い光を当てマイボーム腺の詰まり、炎症を改善して、涙の脂不足を解消します。輪ゴムではじかれたような軽い痛み程度で、副作用はほとんどありません」(堀先生)
MGDの症状は、ドライアイのほかに目がゴロゴロする、目やにが出る(眼異物感)、まぶたが熱い、目が痛い、眼精疲労などです。MGDを起こす原因としては、加齢が大きく関係していますが、ほかに喫煙、コンタクトレンズの装用、緑内障の点眼薬、糖尿病、脂質代謝異常、高血圧などもあります。
目薬をさしても、セルフケアをしてもなかなかよくならないドライアイなら、眼科を受診して、涙の脂分が不足して起こる MGDかどうかを検査してもらうことも、改善に繋がるかもしれません。
イラスト/佐藤 尚美
Instagram:@naomisatoh_illustration
カフェやスパ、医療機関の揃う伊勢丹新宿店本館地下2階にショップを構えるビューティ&ヘルスケアのトータルショップ。
“今”も“これからも”美しく健康でありたいと願うお客さまのかかりつけショップでありたい。その想いから、お客さまそれぞれの「ありたい自分」を叶えるアイテムを、コスメ、フレグランス、フード、インナーサポートなど幅広く取りそろえてご紹介しています。
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